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Ishida Medical Clinic

大垣市旭町の
内科・循環器科
石田内科です

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寄稿原稿より


本当に怖い水と塩の話


先日の健康診断で、血圧とコレステロールの数値が去年よりも高くなってしまいました。仕事が忙しくて運動ができないので、せめて食事だけは何とかしようと、頑張っているところです。
 運動療法と食事療法はどちらも大切ですが、食事の工夫なら、時間が無くても、すぐに取り組めそうですね。

はい、お米が肥満の原因と思って、できるだけ食べないようにしています。栄養のバランスは大切なので、色々な種類のおかずをしっかりと摂れるよう、献立は工夫しています。 でも、体重も減らないし、血圧も下がってきません。もっと効果的な方法があれば良いのですが…
 多くの方が食事療法を始めようとして、最初に思いつくのが、コメを減らす事のようです。しかし、コメを減らしただけでは、なかなか食事療法には成功できないようです。それに、コメを減らすと、すぐにお腹が空いてくるので、我慢を続けるあいだに、食事療法を中断してしまう場合も少なくありません。 

お米を減らすよりも、何か有効なものがありますか?
生活習慣病はヒトに特有の病気なので、野生動物の生活から食事療法のヒントを探してみることにしましょう。他の動物と比べて、ヒトだけが圧倒的に摂りすぎているものがあれば、それが体にとって良くない可能性があると考えても良いでしょう。 

調理をしたものに入っていても、野生の動物は口にしていないといえば、調味料…、砂糖とか塩ですか?
 砂糖のような甘味の成分は果物や蜂蜜のなかにも存在していますが、調味料の中でも「塩」は特殊な存在です。
 海水には、塩や水があふれています。しかし陸上では、天然の塩をみつけるのは容易では無く、どこにでも水が流れているわけではありません。それでも多くの動物は、塩や水が乏しい地上に順応して生きています。

たしかに、野生の動物が塩を買いに行くわけには行きませんね。体内の塩の濃さは海水と同じ、と聞いたことがありますが、野生の動物はどのようにして塩を摂っているのですか?
 草食動物は、植物の中に微量に含まれている塩分を濃縮して、体の中に持っています。肉食動物は草食動物を捕って食べて、その塩分を塩の補給源としています。陸上の動物にとって、塩はとても貴重なものなので、体内に摂りいれた塩分が簡単に外に出てしまわないような体の構造になっています。
 参考までに、ヒトの体内の塩分濃度は0.9%ですが、現在の海水は3%以上と、太古の海よりも濃くなっているそうです。

塩が体の外に出てしまわないために、どのような体の仕組みになっているのですか?
 体内に海水を残したまま陸上に上がってきた動物にとって、塩だけでなく、水も非常に貴重なものです。多くの動物が、水の近くに生息していますが、それでもヒトのように、欲しい時にいつでも水を飲める環境ではありません。そこで、いちど体に入った水と塩を体内に溜めておくために、地上の動物には「腎臓」が備えられています。

体内の余分な水分を外に出すのが、腎臓の目的と思っていましたが、正反対の働きをしていませんか?
 体内の老廃物を尿として排出する時に、初めに作った尿(原尿)の中から、貴重な塩と水は再び体に戻すように(再吸収)できています。本来の腎臓は、体内に塩と水を保つように設計されていましたが、ヒトのように多量の塩を摂る事を想定していなかったので、余分な塩を外に出す仕組みが十分には完成していません。
 過剰な塩分摂取は、通常の野生動物には見られない現象です。塩分を摂りすぎると、体内の塩分濃度が濃くなっていきます。そこで、海水と同じ濃さに戻すために、体内を水で薄めようとします。のどが渇いて多くの水分を摂取するのも、体内の塩分を薄めるためです。また、尿量が減ることで、体内の水分は多くなります。
 そのため、血管内の水分が多くなり、血管にかかる力が強くなるので、血圧が上昇します。また、血管から外に溢れた水で、むくみ(浮腫)がみられるようになります。血液はサラサラになりそうですが、水で薄まっても、体内を循環せずに、いたる所で停滞してしまい、澱(よど)んでしまいます。体は水で冷やされるので、代謝が落ちて、脂質代謝や耐糖能も悪化していきます。
 多量の塩(ナトリウム)を排出するという、想定外の仕事をする腎臓には大きな負担がかかり、本来の濾過機能が低下する事になります。濾過機能を維持するために、腎臓を通過する血液量を増やそうとしますが、そのためには自律神経に命令して、さらに血圧を上げる必要があるのです。

体の中に水が停滞すると、血液もドロドロになってしまいそうなので、テレビに出てくるお医者さんも言っているように、たくさんの水を飲んで、体内ををきれいにしたいと思います。1日にどれだけの水を飲めば健康になれますか?
 野生の動物が健康増進のために、欲しくもない水を無理に飲むような努力はしていないようですが、体内に水分が維持できる構造になっているので、よほどの異常気象が続く時は別として、血液がドロドロになるような脱水状態にはなっていません。
 それではヒトだけが特別に、夏になると血液がドロドロになって、脳梗塞が増えるのでしょうか?
 実際に脳梗塞や心筋梗塞が発症しやすい季節は冬から春にかけてです。特に気温が低い日の早朝に発症例が多い事から、脱水よりは高血圧のほうが、脳血管障害の原因として重要と考えられています。
 塩と同様に、多量の水を摂る事に、腎臓は十分な対応ができていません。摂取した水が全て尿として排出されて、体内にいつもきれいな水だけが循環している状態が理想ですが、塩分の過剰摂取によって体内に溜まった余剰な水は、実際には血圧上昇の原因となってしまうのです。そのような状態にもかかわらず、さらに多くの水を無理やりに飲もうとしても、体の中は、危険な状態から抜け出せそうにはありません。

1日何グラムの塩分までなら摂っても良いのですか?

 減塩といっても、それぞれの人によって、目標は違ってきます。
 何種類かのおかずを食べる事が、現代の食生活では当然のようになっていますが、少し前の時代からみれば、お祭りのごちそうを毎日食べているようなものです。もともと塩はとても貴重なものだったので、保存の手段として普及するまでは、普段の味付けに登場することもありませんでした。ところが、副食のほとんどには、必ずといってよいほど塩が含まれています。おかずの種類が多いと、摂取する塩分の総量も多くなります。
 そこで、食事のバランスは数日間を単位にして調整することとして、1回の食卓に上がるおかずの数を減らしてみることをおすすめします。その分、コメはしっかりと摂るようにしてください。日本人は遥か昔から、コメを食べて健康を維持できるような体質になっています。それに、コメは腹もちが良いので、食後の満足感が得られて、他の穀物と比べて空腹感も出づらいようです。
 健康のためにサラダを食べている方も多いと思いますが、生野菜は水分が多く(漬物にすれば、多くの水が出てきます)、そこに塩と油のドレッシングをかけるのは、かえって体の負担を増やしてしまうような結果となるかもしれません。

それでは、溜まった水分を外に出す方法はありませんか?
 汗を流すのが効率的な方法です。汗の成分は水と塩なので、その分、尿から排出する水と塩の量が減り、腎臓の負担が減ります。
 運動する時間も無いくらいの忙しい毎日と思いますが、軽い散歩だけでも、気づかない間に体内の水分は蒸発していきます。お風呂もお湯に浸かって10分も過ごせば、ポタポタと汗が出てきます。
 水分を我慢する必要はありません。のどが渇けば、体の求めに応じて摂取してください。その場合も、温かいお茶がおすすめです。机の上にペットボトルやマグカップを置いて仕事をしていると、気づかない間に余分な水分を摂ってしまうことになりますよ。

医療&介護ガイドブック 2016 

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